血液/ガス分配係数と麻酔導入速度が逆相関する理由

麻酔薬の評価に麻酔導入速度というものがあります。地球上には様々な麻酔作用を示す薬物が知られていますが、副作用が少なく、導入・覚醒の際のtime lagが小さいほど、扱いやすく優秀な麻酔薬と言えるでしょう。要するにたくさんある麻酔薬を様々な角度から比べるための評価法の一つというわけです。

 

さて、麻酔導入速度というものはその名の通り、麻酔が効き始める速さ(L/min)のことです。麻酔が効くということは肺胞と脳における麻酔薬の分圧がある一定の値で平衡状態にあるということです。平衡に達する速さは麻酔薬の成分によって異なるというのはなんとなく理解できると思いますが、なぜ各物質で大きく差が出るのでしょうか?

その一つの答えとして、血液/ガス分配係数というものが挙げられます。血液/ガス分配係数を一言で言い表すなら、ガスが血液へ溶解する割合と言えるでしょう。口から吸入した麻酔薬のガスは気管を通り肺胞へ送られます。肺胞に達したガスは肺胞壁、基底膜、血管内皮細胞を通過して毛細血管内に拡散されます。そこで麻酔薬は血液に溶けて中枢神経、つまり脊髄と脳に送られます。

しかしこれだけでは麻酔作用は現れません。先ほども述べたように、麻酔が効くということは肺胞と脳における麻酔薬の分圧が平衡に達するときです。(続く)